包丁一本さらしに巻いて

地下鉄の線路をガン見している

日比谷線の先頭車両に乗って線路を見るのが好きだ。

ここ最近仕事が立て込んでおり帰るのが遅い。終電間際の日比谷線に乗り込んで毎日家に帰っている。降りる駅と改札の位置関係の都合上、自分は必ず進行方向の先頭車両に乗る。終電間際なので席は空いているが、電車の運転手が後ろから見える場所に立ち、その場所からじっと線路を見るのが最近好きだ。

運転手の掛け声とともに電車が動き出すと、その先には自分の知らないものがたくさんある。なんか線路が濡れているんだけど地下鉄なのに不思議だな、掃除の後なのかな。見慣れない暗号めいた文字が壁に書いてあるけどあれはどういう意味なのかな。急に電車の速度が変わるけどこれはカーブする際に必要な処理なのかな、それとも駅に着く前の速度コントロールなのかな。線路の脇に石が敷き詰められてる部分とそうでない部分があるんだけど、違いはなんなのかな。

楽しむコツは「地下鉄の線路、進む先々に駅があり光がある」みたいな安っぽい人生訓や仕事論のようなものが頭に浮かんで来たら間髪入れずに思考から消して、ありのままの線路を見ることだ。そうすれば、少なくとも自分は楽しめるし、深刻にならないで済むし、何かを非難することもない。仮説も立てない、検証もしない。へぇ〜〜なんで?だけの状態の脳を維持する。

一日の仕事の疲労で赤ちゃんみたいになっている思考を投げ捨て、頭空っぽ状態で、今日も日比谷線の先頭車両で線路をガン見する。