包丁一本さらしに巻いて

良い問題がチームをリードする

ここ1年弱くらいバンドルカードのプロダクトマネージャーをやっている。やっていく過程でとても参考になった本、ブログ記事がたくさんある。

そんな文章の1ページ1ページの中には、それこそ頭をかきむしりながら読んだページがあるし、読んだ瞬間思わず天井を見上げてしまうようなページもあった。心にグッサリ刺さる他者の経験や知見の言語化と、自身の経験を重ね合わせた際に、今何かまとめておきたい事あるかなと考えたらこの記事のタイトルになった。「良い問題がチームをリードする」だ。

PMの大切なスキルのうちの1つ

以下はCracking the PM Career: The Skills, Frameworks, and Practices To Become a Great Product Manager本編序章に寄稿されたマリッサ・メイヤーのパンチライン。

One of the most crucial skills required of a PM is managing through influence. Product managers rarely have management responsibilities over the engineers building the product. As a product manager, your responsibilities naturally flow to the product and managing to meet the market need. However, to meet the market need, you will need to convince the engineering teams to build the product, requiring you to use influence rather than authority. Each product manager will draw on their own toolset—persuasiveness, supporting data, user studies, design principles, relationship building—to achieve this. Managing through influence is one of the most important skills a product manager must develop and is also the most nuanced.

PMの最も大切なスキルのうちの一つは影響力によって向かう方向を示していく事である、という話だ。最も大切なスキルのうちの一つだけど最も曖昧なものでもある、というフレーズも自分の認識とかなり一致している。影響力によって、というところがキモで権威による管理ではないという点も重要だ。直接的な人事権を持たずに、しかしチームが真に価値を届けれるプロダクトを作れるよう協力しながら道を切り開いていく。

3人のチーム、シード/アーリーステージの会社ならこんなに複雑な何かを考えなくて良いと思う。でもチームが20人、30人になってきた時に同じ事を継続するのが難しくなってくるタイミングがある。そういったときに上のような事を考えていかないといかんのだよね。

影響力の発揮方法

影響力以前の基本的な対人間への姿勢に関してはLISTEN――知性豊かで創造力がある人になれるをお勧めすることが多い。基本的な対人間への姿勢がまっとうであれば、その上に影響力を持ち得るかどうかという議論がある。マリッサ・メイヤーの引用の中では、強く自分のスタンス持つ、定量データ、ユーザー調査、デザイン原理、人間関係構築術、等それぞれのPMが自分の道具箱から得意な道具を使ってチームとやり取りをすると書かれている。

これらは確かに道具としては必要だと思う。でも、じゃあそれらの道具を使って何を目指せば良いのかはこの文章では明確になっていない。説得する、影響力を発揮する為にその道具を使うのか。流石にそれは本末転倒だろう。そうではなく、自分はこれらの道具は「良い問題を定義する」為に使われ、「良い問題が定義できるから」チームに対して影響力が生まれる、という理解をしている。

自分は 〇〇 強化型人間を目指す:PM + プロダクトに関わる人のプチキャリア論と、今後強化できる 20 のスキルについて この文書がかなり好きだ。Qに2回は読み返している。デジタルプロダクト作っていく上で強化型がなぜプロダクト改善のスピードを上げ得るのか具体的なイメージを挙げながら議論の土台を作った上で、強化可能な20の領域に関して他者の知見を整理言語化してゆき、それでもなおPMのスキルの軸とするべきは「問題発見・戦略定義・優先順位決定・実行フェーズのファシリテートの能力」であると繰り返し書いている部分が好きだ。部分ってかコレは全部だな。

マリッサ・メイヤーが挙げた道具箱の中身や20の強化領域は「良い問題を定義する」ことに使われ、これらがチームがより良い価値を作っていく原動力になっていくのではないかなと思っている。

良い問題って何

ここまで未定義のまま利用されてきた便利な「良い問題」というフレーズ、各種定義はあると思うんだけど、なんとなく一般に広がってるのは以下だと思う。自分は以下2つの本の中にある定義はかなり良い定義だと思っている。(余談だけどMcKはイシュー、BCGは論点なの面白いなぁと思いながらいろんな人のツイッターを見ている)

  • イシューからはじめよ p537
    • 「本質的な選択肢である」
      • それに答えが出るとそこから先の検討方向性に大きく影響を与えるもの
    • 「深い仮説がある」
      • 常識を覆すような洞察や新しい構造で世の中を説明したりしている
    • 「答えを出せる」
      • 重要だが答えを出せない問題は取り組んでもしょうがない
  • 論点思考 p484
    • 問題解決が速い人は、本当に解決すべき問題すなわち「真の論点はなにか」とつねに考えている。もう少し具体的にいえば、「なにが問題なのか」「それは解けるのか」「解けるとどんないいことがあるのか」を考える。

上記定義は両方とも10年前の主に大企業を相手にしていて数ヶ月で何か難易度の高いお題に結論を出して高めのフィーをもらうプロジェクトを主体とする戦略コンサルティングという業態の人たちが考える良い問題であって、2022年のシリーズB程度のデジタルプロダクトのPMが現場で定義するべき良い課題とは、必ずしも完全一致しないのではないかなぁというのが最近考えているところ。まだ歴史の浅いプロダクトだけにもう少し地味だけど重要で良い問題あるよなという。上の本は両方とも何度も読み返しており、エッセンスは時代を超えると思っているが、そのまま厳格に運用は出来なさそうだなという思いがある。

年間売上100億いかない程度のローンチから10年未満のデジタルプロダクトのPM文脈では、解けたらこう嬉しい!というのが"その時の"プロダクトの提供価値と事業計画とマッチしていてチームのテンションも上がる、くらいで良いかなと自分は思っている。若干投げやりな感じもあるな。その時のプロダクト提供価値と事業計画にマッチしているとは何かという深淵な問いも出てきてしまうのでそれに関しては今度書く。

解けたらこう嬉しい!がその時のプロダクト提供価値と事業計画にマッチすると何が起こるかというと、チームがまとまり方向性ができる。経営陣はそのまとまりを力強くサポート出来る。会社単位でサポートされた方向性ができると各自が自律的に自分の見えている領域で何をするべきかを考える事が出来るようになる。人間は意義のある問題、自分のものだと感じられる問題を解く時にテンションが上がる。この勢いがマリッサ・メイヤーの言うinfluenceなんじゃないかなぁと今は考えている。

そして、ここが大事なんだけど、この良い問題を定義する行いはロールや職種や権威は関係ない。特定のロール以外は良い問題を定義しちゃ駄目であるなんてのも馬鹿みてぇだし、権威を示せば即良い問題が定義できるなんてことはない。もちろん良い問題を定義しチームに効率よくコミュニケーションするという技術はタダで手に入るもんじゃないし、とても抽象的な問題を定義しなければいけないのであればそのドメインに対する深い知識も必要だろう。しかし、どんなロールや職種であろうと、個人で訓練しつつ現場で経験を積んでいけば少しずつではあるが確実に出来るようになっていくと考えている。

まとめ

  • PMが持つ影響力の源泉は各種強化スキルを通して効率よく定義された良い問題で、それがチームをリードする
  • チームを中長期的にリードするのにロールや権威を土台にしてもあんま上手く行かないと思ってる
  • 良い問題の定義は世の中で議論されているけどシリーズ浅めのデジタルプロダクトのPMという観点からいけばもう少しライトで良いんじゃないかと思っている
  • 良い問題の定義、すなわちチームをリードしていく行いはロールや権威に縛られないのでみんなでやっていこうな

(おまけ)

イシューに関して日々の考察に余念がない様子です。ご確認ください。