バンドルカードを作ってる2
提供している価値
バンドルカードの「Vandle」は造語で、誰でもかんたんに自分が持つ価値(value)をうまく扱える(handle)ような、という意味が込められている。2016年のリリース当時からこの名前とその裏にある思いはずっと好きだ。
- バンドルカードができるまで by ideyuta
- バンドルカードを作ってる by achiku
- バンドルカードの過去の意思決定振り返り(カンム社長八巻とCOO知久の対談) by 8mai&achiku
2021年前半くらいからプロダクトとチームの拡大は一定のしきい値を超えており、そもそも価値(value)をうまく扱える(handle)というのは具体的に何なのか、チームの認識を揃えれるような、しかしプロダクトが持つ可能性を狭めない適切な抽象度の言語化をする事で、プロダクトチームが今よりも更に効率的/自律的に動けるようにしていきたかった。
リリースから約5年の磨き込みで、事業的にも提供価値的にも現状の実績を鑑みればGood Productまでは持ってこれたと思っている。もちろんここまでの道のりは決して楽ではなかった。ここまでこれたのはひとえにチームの粘り強い仕事が作り出した様々な発明があったからだと考えている。そんな中、ここから更に先へ行く為には、事業計画とプロダクト開発を橋渡しし続ける職種を超えた共通言語が必要であると強く感じていた。
2019年からチームで泥臭くユーザーと事業数値に向き合い続けた上で、現時点でバンドルカードが今後も提供していくぞと自信を持って言えるのは「価値交換」「価値制御」「未来価値」の3つになる。2022年6月で大体1年程度、この3つの提供価値を事業計画とプロダクト開発の随所で運用しているが結構しっくり来ている。
以下、バンドルカードが追求していこうとしている3つの価値「価値交換」「価値制御」「未来価値」について説明していく。
価値交換
ゼロ年代後半、既にインターネットでものを買うという行いはかなり普及していた。日本でもAmazonと楽天は既に活躍しており、少なくとも「ネットで物を買うとか正気か?」みたいな空気はかなり減っていた。ただし、当時はまだインターネットを通してコンテンツを買うという行為はそこまで普及していなかったと記憶している。Netflixがストリーミングを開始したのが2007年、iPhoneが日本で発売されたのが2008年。そして「インターネット上でこれ以上先のコンテンツ/サービスを得るにはお金を払う必要があるよという壁」を意味するpaywallという単語がthe New Oxford American Dictionaryに新語として登録されたのが2009年だ。その先の2010年代はそれまでインターネット上でコンテンツを無料公開して集客し、広告でビジネスを成り立たせるという形を取っていたコンテンツプロバイダーがこぞって有料コンテンツを提供し始めた時期であり、スマホの爆発的な普及とApple/Googleのアプリストアという形態の定着が、パブリッシャーも巻き込んでアプリ内部で何かを買うという行動を急速に一般化していった激動の一時代だ。
2010年代後半以降もサブスクという言葉の定着が示す通り、オンライン上で何かを買うという行いの一般化は一層加速し続けている。「サブスクリプション型のビジネス」って丁寧にフルネームで最後に呼んだのいつだ?それくらい「サブスク」という言葉は日本でも定着した。また、先般のコロナによる外出機会の減少によって買い物のオンライン化、エンタメのオンライン化は加速し人々の生活様式に大きな変化をもたらしている。2020年、BAD HOPの横浜アリーナ無観客オンラインライブからもう2年以上経過してることに驚きを隠せない。
売る側だけでなく、作る側にも変化がある。クリエイターエコノミーやファンダムエコノミーと呼ばれる経済圏が昨今取り沙汰されるようになってきているが、自分たちがインターネットに触れ始めた時と比較して「作り手」「表現者」の数は圧倒的に増えている。しかもメインストリームにどんどん入ってきていると感じる(YOASOBI(Ayase)や米津玄師はボカロP!)。音楽だけじゃない、ゲーム実況もあればVTuberもあればクラフト界隈、絵師界隈もあり、何かを生み出して発信し生み出した価値に対して応援してもらう、対価としてお金をもらうという行為の裾野はより一層広がりを見せている(自分も beatstars にachikuアカウントは作った…絶対日曜ビートメイカーになるんだという強い意思…)。「人が何かを創る」というのはどんな領域だろうと尊い。間にアグリゲーター的なレイヤーはどうしても入ってしまうが、そのアグリゲーターの代表格であるYouTubeはTuneCore等の技術を開発し続けており、またこれらの仕組みを啓蒙しオリジナルクリエイターが厳しい思いをしないようにオペレーションが整理され続けている。こういった仕組みは本当に今後もがんばってほしい。
これだけ裾野が広がり価値あるものがインターネット上に散在するようになると、相対的にではあるが、価値交換の壁は拡大していると考えている。壁の向こうは魅力的になっており惹かれる人が増えているが、その壁の高さはさして変わっていないからだ。
そんな中リリースから今まで、AML(アンチマネーロンダリング)プログラムの指針を遵守しながら可能な限り誰でもすぐに決済出来る仕組みを整え、そして利用可能な加盟店を広げてきた。国際カードブランド(Visa/Master/JCB等)のエコシステムは、その流通総額の大部分を占めるクレジットカードを前提に構築されている部分も多く、後発のプリペイドカードでは対応しきれず歯がゆい思いをしていた時期もある。しかし、プラットフォーム側レギュレーション更新への地道な追従、継続的なデータモニタリングや有識者との実地調査によって、今まで利用できなかった加盟店で利用出来るようなオペレーションを構築でき始めている。更に、先程リリースした全カード3DS(3Dセキュア) 2.0対応も、利用可能な加盟店を広げる為の大きな一歩だ。
てか正直さくっと作れるバーチャルカードにも3DS標準装備されてんのマジすごいと思うし、今後も誰でも自分の持っている価値をどこでも自由に交換出来るように改善を繰り返していくぞ、という強い思いがある。今年後半にはもう一個キッチリ体験を更新出来るリリース仕込んでるので待っていてほしい。
- 参考図書
価値制御
ゼロ年代後半、2010年代前半、Webスクレイピングを利用したアカウントアグリゲーションによるPFM(Personal Finance Management)という領域が盛り上がっていた。銀行/証券/クレカのウェブサイトとデータ連携して家計を現代的に自動で管理出来るようにしようという流れがあったと思う。2009年にMintがIntuitに買収されてすげーなと思った覚えがあるなとググったら当時の空気感がよく乗ってる8makiブログが出てきた。完全に余談だけどこの時期のIntuitの取締役会には100% Substanceことビル・キャンベルがいたはず。
日本においてもこの領域は各種アプリ/Webサービスが活躍している。マネーフォワードMEに関しては決算資料が出ているので参考にすると、2022/11月期において「『マネーフォワード ME』アプリのダウンロード数およびWEB登録者数の総計」は1,280万人、同期間において有料会員数は36.3万人、同期間における有料ユーザーからの売上は460百万円となっている。期間中一度でもマネーフォワードMEにアクセスしたユーザー、という単位での数値は公開されていないが恐らく最低でも有料会員数である36.3万人の十数倍くらいの数字かなぁと妄想している(参考までに2022/01/01時点の日経電子版の有料会員数は79万7362)。かくいう自分もマネーフォワードME年間課金勢だ。もはやマネーフォワードの自動連携機能が無いと今どういう状況なのか把握出来ないというレベルでお世話になっている。もう絶対手書きで家計簿をつけれない。
このように、散らばった家計データを"自動で"集約してモニタリングする土台は数年前と比較してかなり整ってきている。しかし、ユーザーインタビューをしていると、毎月3回ATMに行き1回2万円ずつ引き出す、というような行動で支出を管理している方たちはそれなりにいる。こういった行動はPFMや手動でつけている家計簿で確認するよりも一段階短いサイクルで「一定期間先まで使える額を予め決め、物理的に使いすぎる事ができない状態を作る」という、未来の自分に対する慎重な姿勢の現れとして捉えている。そして、現状このような制御を電子的に行う手段は幅広く提供されているわけではなく、現金という物理的なものに頼っている状態だと認識している。
自分は車の「自動ブレーキ」と「メーター」という例えをよく使う。メーターに注意を払い続けるのは一定のメンタルコストがかかる一方「自動ブレーキ」は勝手に起動して事故を防いでくれる。メーターは自動で付けられ続ける家計簿で、自動ブレーキがATMから一定金額引き出して財布に入れている現金なんじゃないのかと考えている。そしてそれはプリペイドカードの残高でも表現出来ているんじゃないかな、ということも。メーター自体はかなり充足している2020年代において、ソフトウェア化された自動ブレーキというのは、自分の持っている価値をより良く制御する為の選択肢として有力だと考えている。
ソフトウェア化された自動ブレーキというアナロジーから見ると、例えば車の教習所で使われている助手席から操作出来るブレーキのように、誰かと一緒に自分の持っている価値の制御方法を学習していく、といった事も出来るはずだ。自分は2017年から親子で使えるカードのユーザーインタビューをしており、かなりこれについては熱く語れるのだけど、それに関しては別途書く。他にもサブスクという新しい課金体系が広まった事による管理の煩雑さ等、今の時代だからこそ現れてきている課題もいくつか存在している。現状この価値制御領域において、メーター的な機能含めてバンドルカードはまだ大きなインパクトは出せていないという認識があり、鋭意準備中のステータスだ。
自分の持つ価値をより良く制御できるようサポートする、というのは本当に難しいトピックだと思う。先月より利用金額が増加しても、追加分の出費に満足していたらそれは「使いすぎではない」という事になりえる。月次の単純な金額増減だけにとどまらない深みのあるトピックだ。これは同時に、良く制御できるとは何か、という問いでもある。社会全体で善とされている選択は必ずしも個人の選好と一致するとは限らず、客観的リスト説に基づいて個人の選択に介入するぞ〜行動経済学とナッジ最高〜と無邪気に言う気にはなれない。しかし、とは言え適切に設計された制限が生み出す自由が存在することは否定し難い。自分の持っている価値を自分が思うように制御することをサポートし、制御/制限を加える事で自由を生み出せるような道具を、なんとか脳を振り絞ってちょうど良い形を作っていこうとあがいている最中だ。
- 参考図書
未来価値
貨幣の介在を通さずとも、未来に存在するであろう価値を現在に引っ張ってきて何かを上乗せして返す、という行いはかなり歴史のある概念のうちの一つだ。まだ貨幣という概念が存在しなかった時代から、種籾を一定期間借り作物を作り収穫後に借りた種籾に上乗せして返すという行為の記録は見つかっている。そのような行いに関する最古の公的な規制はハムラビ法典まで遡り、複数の宗教上の戒律による規制と相まって、その歴史とほぼ同じ長さだけ規制/戒律と共にあったとも言える。
未来に存在するであろう価値を現在に引っ張ってくる際に、その現在価値をどのように見積もるかという問題は各種ユースケース別に大量に考案されている。特定の金融商品(e.g. 国債)の利率で未来価値をディスカウントする、というのは代表的な例の一つだ。これらの見積もり方法に関して、法人ではなく個人に限定すれば、太古の昔は地縁血縁、近現代では勤務先企業/住居が間接的に与える信用が大きな役割を果たしてきた。名著 サラ金の歴史 の中でそのような見積もり技術は「金融技術」と表現されている。時は2022年、取り扱えるデータが飛躍的に増加しているし今後も増加していく傾向は明らかになっている。そんな中、地縁血縁住居職業という時点のスナップショットの信用ではなく、その人の実際の行動に重きを置く方式に見積もり方式を改革することで、より多様で多くの人に「自分が持っている価値を未来まで拡張する」ツールを提供できるのではないかと思っている。
ただ、「自分が持っている価値を未来まで拡張する」と同時に発生しうる問題にも自覚的であるべきだと思うし、ビジネスモデルのインセンティブ設計には慎重になるべきだと思う。
名著は、その名著たる所以であるフラットな視点によって、金融技術と加熱しすぎた企業間競争、途中から投入された団信/不動産担保とインセンティブモデルが招いてしまった悲劇、その悲劇を回避していく為に活動してきた方たちの話を時系列に細かく記している。現在バンドルカードがセブン銀行様、Gardia様とともに提供している後払いであるポチっとチャージにおいては、1回の後払いチャージ金額に対して固定の手数料をいただく形になっており、返済は一括のみという制約を入れている。金額は5万円が最大。支払期限はチャージ時点の翌月月末までで、期限内にお支払いいただけない場合はサービスに対していくつかの制限が入る。これらいくつかの制限ゆえ「これじゃ足らないな…」とならず「これを支払うの大変だな…」ともならない最適な上限を提案し続けていく機能、「支払いうっかり忘れてた…」とならないコミュニケーションを磨き込むインセンティブが一定構築出来ていると考えている。
ポチっとチャージが目指す先に関して、自分の中で比較的しっくりきているアナロジーはハサミだ。園芸用のハサミとかではなく、一般的なオフィスとかに置いてあるハサミを想像してほしい。ハサミは先が丸くなっていて、デフォルトで人を傷つけにくい構造になっている。また、ハサミの刃の部分に関しても触っただけ、少し擦っただけでは対象を傷つけない形になっている。しかし、意思を持ってハサミを動かせば紙やダンボールぐらいなら切ることができる。でも普通の人がどれだけ力を入れてもハサミでスマホを切断することは難しい。この絶妙な構造によって制御されている「できることとできないことの境目」こそが、身近に存在するが可能な限り事故を起こしにくい道具の真髄で、それは今提供しているポチっとチャージにも言える事なんじゃないかなと思う。
このような未来価値を現在に顕現させるというサービスは、それこそ「ヴェニスの商人」の時代から感情的にも制度的にも問題が存在する、恐らくとても扱いが難しい問題だ。だからこそ、ソフトウェア/デザイン/ユーザー理解/科学の力を使って少しでも良くしていく挑戦には意義があると考えている。前世紀の反省と未来への展望という意味では以下のような書籍があるので、もし興味のある方は読んでみてほしい。
- 参考図書
「価値交換」「価値制御」「未来価値」の関係性
「価値交換」があれば自分の持っている価値をどこでも、何とでも交換出来る。「価値制御」があれば自分の持っている価値を自分が思い描いたように制御出来る。「未来価値」があれば自分が未来に持つであろう価値を現在に引っ張ってこれる。これら3つの提供価値はゆるく依存関係があると考えており、このゆるい依存関係を頭に入れておく事で、チームで優先順位を考える際に議論の土台にしやすいと考えている。もちろんこの図単体でサクッと優先順位は決まらないし、事業計画/ファイナンスとの対話やパートナー企業とのスケジュール調整、本当にインパクトがある施策足り得るかの分析/実験も重要な要素ではあるが、少なくともプロダクトが提供する価値同士の関係を一定程度理解できる形にしておくのは有意義だなという実感がある。
まず全ての提供価値の土台として「価値交換」が存在している。これはその上に乗っている「価値制御」「未来価値」は自分の持っている価値を何かと交換出来る事を前提にしているからだ。利用出来る場所が限られている(=価値交換能力が低い)場合、その上に乗っている価値制御も未来価値もネガティブな影響を受けてしまうという構造がある。「価値交換」の上に「価値制御」があり、その上に「未来価値」がある。これはユーザーインタビューをしていると、残高の減少が見えているが故に後払いでチャージした金額も使いすぎに注意しながら利用していける、という話を何度か聞いており且つ利用者アンケートでも定量的に評価されている項目であるが故にこの形にしている。
社内で利用している図は2つ要素が追加されている。それがこの「かんたん!わかる!」と「安心安全」だ。
提供価値がどれだけ拡大しても、ユーザーに理解してもらえないのであれば意味がない。よって価値の拡大だけではなく「かんたん!わかる!」を実現していく為にデザイナー/CSを中心に活動している。また、ユーザーに提供する価値の言語化からは少し距離があるが、大切なお金を預かるチームとしてセキュリティや不正利用対策に対する投資は欠かせない。「安心安全」ではシステム、オペレーション両面からセキュリティ強化や不正利用への対応をしていく。
この図の地味だけど面白い特徴の一つは、提供価値毎にレバレッジが効くスキルセットが微妙に異なる事だ。例えば未来価値領域はML/データアナリストのスキルが大きくレバレッジ効く、価値交換領域は決済のドメイン知識やVisa APIに対する深い理解が必要、等。もちろんオーバーラップする部分も多いが、より力強くなったチームのスキルセットが並列に稼働し続けれるように、ゆるいチームアップがよりやりやすくなるように概念が整理されたと思っている。他のチームがどの価値を向上させる為に、どのようなトピックに取り組んでいるのか、説明のフレームと物語が存在することで、主観ではあるが情報伝播の効率が上がっているなという感想を持っている。
- 参考図書
余談だが、チームのスキルセットの並行稼動を考える時にRob Pike先生の “Concurrency is about structure” というフレーズを思い出していた。適切な抽象度の提供価値とその依存関係は一つのstructureなんだろうなという気持ちがある。
チーム構成考えてたらこのSlideを思い出した。チームやサブチームがより素早く価値を届ける為にConcurrencyを持つように設計したいとなると「解くべき問題の明確化」「解く問題の範囲/独立性」を考える必要があり、システムの設計やんけとなる。https://t.co/zNw93aHQSY pic.twitter.com/uxk1wFvLGu
— _achiku (@_achiku) February 8, 2022
10年変わらないもの足り得るか
上記のように言語で表現するとなんか練りに練って言語化した何か、という印象を与えてしまうかもしれないが、どちらかと言うと毎日当たり前に接している、現場に立ち現れてきたものを言語に落とし直近の歴史の中に配置した、というのがより実感に近い。チームが可能な限り一次情報に当たり続けているからこそ、こういう概念が立ち現れてきていたと考えている。
3つの提供価値を向上していくことで、バンドルカードは誰でもかんたんに自分が持っている価値(value)を扱う(handle)為に必要な道具になっていけるのではないかという仮説を持っている。個人的にこの3つの提供価値を突き詰めた先にある「いつでも、誰でも、すぐ、自分の思ったように価値を制御できる」はAmazonの「安い、すぐ届く、品揃え豊富」と同じように10年後も変わらない価値だと思っている。次の10年で何が変わるか、最近流行りの何かではなく、今後10年も変わる事がない、自分達が投資し続けるべき提供価値は何か、という話だ。
“I very frequently get the question: ‘What’s going to change in the next 10 years?’ And that is a very interesting question; it’s a very common one. I almost never get the question: ‘What’s not going to change in the next 10 years?’ And I submit to you that that second question is actually the more important of the two – because you can build a business strategy around the things that are stable in time.”
もちろんこの3つの価値をより高めていく為にどのようなアプローチが有効なのかは定性/定量両面から、現場にある迫真の具体性を探索していく。時にその探索は複雑な事象の中に深く入り込んで行くことになる。もしくは事業計画策定時にどうしても噛み合わない議論があり、感情的に白熱してしまう。そういった迷いやすい道においても、互いに譲れない議論をしている中でも、この3つの価値にどのような変化を加える事が出来るのかという観点は議論の土台を整備する事が出来るのではないかと考えている。
ソフトウェアエンジニアとして思うこと
自分はもともとソフトウェアエンジニアとして活動していた(GitHub)。それはひとえに直近50年においてソフトウェアというものが人間の機能拡張に最も資する発明で、それがとにかく面白かったからだ。面白すぎてバカデカ外資を辞めて社長含めて3人の会社にソフトウェアエンジニアとして転職してしまって今に至る。自分一人で、コンピューター1台とインターネットがあれば無限に奥行きがあり没頭出来るという特性も、とても自分の性に合っている。ソフトウェアエンジニアをやっていると、歴史的なソフトウェアの話を読んだり聞いたりする機会がある。その際によく出てくる印象的なフレーズが以下だ。
「それっておもちゃだよね」
Linux、Cisco、MS-DOS、Apple II。MySQL、PostgreSQLも"エンタープライズ"の人たちにはおもちゃと言われていたのを知っている。AWSやGCPもベアメタル全盛の時代にはおもちゃと呼ばれていた。確かにリリース当時はおもちゃのような機能しかなかったのでそれ自体は正しい指摘だと思う。
バンドルカードもリリース当時この業界の専門家からは「おもちゃだよね」と言われていた。もちろん「おもちゃ」で終わってしまうプロダクトもたくさんある。でも自分たちはそこで終わらなかった。現状「事業」という形でもキッチリと結果を出し、エコノミクスこと鍛え上げられたプロダクトのインナーマッスルはブレない体幹を作り、プロダクト/オペレーション両方において細かくも重要な改善を積み上げ、全カード3DS 2.0対応し、先週は新プロダクトであるPoolもリリース完了した。まだ、正社員40数名の会社が、である。
しかし、ここまでやってもまだ「おもちゃだよね」の重力から完全に抜け出せているわけではない。
今でも「それって別にクレカでよくね?」というフレーズはよく聞くし、自分が毎日大量に受け続けている「No」の代表的なもののうちの1つだ。そしてその指摘自体は"現時点においてはある程度正しい"と、自分ですら思っている。ただ、「クレカで良くね?」と思っている人たちの多くはバンドルカードが存在しない時代で生活してきた人たちだ。そうであれば、「クレカじゃなきゃ無理!絶対クレカ!」ではなく「クレカでよくね?」程度なのであれば、価値交換/価値制御/未来価値を突き詰めていけば「プリカでよくね?」という状態だって作り上げれるかもしれないと考えている。
一緒に作りませんか
市場セグメントの話、事業計画からの四半期計画作成、今回書ききれなかった事もたくさんある。提供価値についても、文字多すぎ問題を回避する為に端折ってる部分がある。全部に100%の解答があるわけでなく、まだその解答を作っている途中のもの、まだ定義すら出来ていない問題、この領域には難しいが成すべき仕事がたくさんあると考えている。もしこの文章を読んで気になってることあるから聞いてみたい等あれば気軽にmeetyで連絡してほしい。
当然のことながら、カンムは全ポジションで全力絶賛採用中だ。バンドルとPool合わせてもプロダクトチームは20名程度の規模で、提供価値と事業計画の両輪を意識しながら自律的にトピックを決めてより良いプロダクトを作っていく、とても良いチームが出来てきていると考えている。一緒に働くの、きっと面白いと思うのでカジュアル面談からでも良いので応募是非!!一緒に良いプロダクト作りませんか!!
- カンム採用情報
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- ビジネス
- コーポレート
※備考(本おすすめ理由)
本文の中におすすめ理由入れてたけど流れが悪いのでこっちにて!
- 21世紀の貨幣論
- 「通貨は物の取引を物々交換以上に効率化する為に生まれた」って思ってます?でも最新の研究では物々交換を主流とした社会の記録は見つかっていないとのこと。ヤップ島にあるフェイという不思議な通貨の話から始まり、じゃあ通貨/貨幣はどうやって生まれてきたのか、そもそも何なのか、という話を歴史を紐解きながら説明していくかなり好きな本。「マネーとは信用の特殊な形態であり、貨幣交換とは信用取引を清算することであり、通貨とは信用関係を基礎にして流通する代用貨幣にすぎない。これが、ケインズとフリードマンが称賛したヤップ島の経済の世界観だ。p411」とあるがこの一文の内容を残り2,000ページくらいで詳細に解説してくれる。余談だけどケインズとフリードマンが解釈一致してるのかなり胸アツ。帯はマジで書き直した方が良いと思うが内容は最高。
- 幸福とは何か ──思考実験で学ぶ倫理学入門
- 幸福とは何かを考える際に便利な観点を直近の倫理学からめちゃくちゃ丁度いい抽象度で説明してくれている本。個人にとっての個別具体的な幸福ではなく、幸福という概念を端的に過不足なく説明する、そもそも幸福とは何を意味するのか大部分の人が共有している考えを明らかにする、という事にフォーカスがあたっている。快楽説、欲求実現説、客観的リスト説という3つの分類を用いて幸福という概念がどのように定義出来るか、それぞれの定義を用いることで上手く捉えれるもの/こぼれ落ちてしまうものは何か、というのを実例と理論を反復しながら解説してくれる。何がユーザーにとって「善い」のかを考える際に多分自分はこの本を思い出しながら文章を書いてると思う。
- サラ金の歴史
- 戦後日本の貸金の歴史が当時の家計や企業を取り巻く文化や風習含めて、企業側/消費者側双方からフラットにこの商売を見た際にどのような発展の仕方をしてきたのか、どのようにして問題が起きたのかを豊富な参照先を明記しつつ描いてくれている。参考図書で挙げているもの以外にも日本の貸金関連本は読み漁ったがコレが最も包括的で客観的だと思う。
- EMPOWERED 普通のチームが並外れた製品を生み出すプロダクトリーダーシップ
- 古典的マトリクス型組織にキラキラネームをつけて満足するのではなく、プロダクトが長期的に成すべきこと、提供する価値の言語化、事業計画とファイナンスを鑑みた四半期計画とそれを納得感を持ってプロダクトに接続する方法を磨き続ける必要がある。EMPOWEREDはこのあたりのプロセスや、見過ごされがちな対人間コミュニケーション、必要になるロールを結構細かく描き出してくれている。特に本の最後の章のケーススタディはチームが拡大してきてどうやって四半期や年単位で事業を運営していくべきかという事を考える際に参考になるので、プロダクトチームが20人くらいになってきて最近プロダクト開発の難易度上がったなという方にはかなりおすすめ出来る。インサイトという言葉の定義が薄い!戦略の定義が薄い!等、思う箇所もいくつかあるけど、そういうのは専門の本読んで補えばまぁいいだろという感じです。この本によく出てくる 良い戦略、悪い戦略は名著。